すでにあるもの

May 20, 2023

 メディテーション(瞑想)には沢山の種類があります。例えば私たちの伝統においてだけでも、マインドフルネスから始まり、洞察力を磨くヴィパッシュヤナ、思いやりや共感力を育むラヴィング・カインドネスやトンレン、さらにはマハムードラのメディテーションなど様々なものがあり、テクニックも、練習中の心的対象も、そして効果もそれぞれ異なります。

しかし、そうした多種多様なメディテーションの全てに共通していることは、私たちが『本来持っている資質』を使う、ということです。決して新たに、他のどこかから何かを『獲得』するものではないというところにポイントです。 

 例えば、マインドフルネスによって培われる、明晰さや心のしなやかさ、落ち着きや安定は、もともと私たちに備わっている資質です。しかし、忙しく散漫な心の状態が、その本来の質を阻害してしまい、自分でも気づかない、または使えない状態にしてしまいます。メディテーションで落ち着きを取り戻せば、この本来の『質』にアクセスすることができ、それらを回復することができます。

 また、ラヴィング・カインドネスやトンレンといったコンパッションで磨かれる思いやりや優しさ、周囲の人や動物たちへの共感力も、もともと私たちに備わっている性質であって、どこからか新たに獲得しなければならないものではありません。エゴ(自意識)の過剰な働き、すなわち「私」に固執しすぎることによって、自分自身の本当の資に気がつかないだけなのです。コンパッションのメディテーションによってチューニングしなおせば、エゴを弱め、自分が持っている優しさや思いやりに触れ、日常的に使えるようになります。

 大切なポイントなのであえて繰り返しますが、このようにメディテーションは、私たちの本来ある質にアクセスしたり、呼び起こしたり、使い慣れたりする練習です。決して新しい外部の力を獲得するものではありません。このポイントを理解できずにメディテーションに取り組むことは、メディテーション自体を歪め、心の素直な成長を阻害してしまいます。

 

 よく「メディテーションにはゴールはない」と言います。これは実践者が目標達成思考でメディテーションに臨まないようにするための常套句の一つです。もちろん、人生や仕事などの目標を持つことは決して悪くはありませんし、むしろ必要なことでもあり、メディテーションはそうしたしっかりとしたビジョンを持つためのものでもあるとも言えます。しかし、問題はゴールや目標に固執しすぎことで、自分の足元、自分自身の状態に目を向けられなくなり、自分の本来持っている余裕や豊かさ、明晰な知性といった資質にアクセスできなくなる場合があることです。

 何かに固執した心は、ほぼ自動的に、自分は何か不十分で、何か不安だと感じはじめます。これをチョギャム・トゥルンパ・リンポチェは、Basic Anxiety (基本的不安)と呼びました。この自分自身には資質が勝手にないと思い込むことから生じる不安によって、私たちは勝手に焦り始めます。「何か埋めなければ、何かを獲得しなければ、私が大変だ!だって、私は何かが足りない存在だから!!」となるわけです。

 この今の自分は何か不足しているから、新しい力を獲得して自分を安心させなければと焦ることこそ、私たちの日常においての認識の最大の誤認・誤解なのです。

 「常に何かが足りない」という感じは、エゴの基本的で代表的な性質の一つです。なぜ不足感が拭えないのかというと、エゴ、または「私」と言うアイデンティティは、ただの概念的「思考」に過ぎず、全く実体のないものだからです。「私」という意識は炭酸水の泡のように沸いては弾けて消えてしまうものに過ぎず、常に消えて無くなっているため、その性質上、全く充足感、満足感を得ることはありません。

 そこで私たちはこの実体のない不確かな状態をなんとか固定して、「私」という自意識が継続した存在を保とうとします。そうして作り上げた「継続した私」という意識は、私たちが自然に存在している感覚とは全く異なるもになってしまいます。極めて人工的で、まるでプラスチックのように自然界にそもそも存在しない異質なものです。 

 もし、メディテーションの練習を通して、現実をありのままに洞察する力が磨かれ、常に自分の存在状態を自覚することができれば、そこには充足感、安心感、柔らかさ、そして明晰な知性があるため、不足感や焦燥感は生じ得ないのです。

 このようにメディテーションは、自分に本来備わっているものと、自分が人工的に作り上げてしまったものの違いをはっきりさせる練習なのです。伝統的にメディテーションは銀を磨くようなものと言われます。銀の周りに付着した汚れを磨いて落とせば、そこに美しく輝く銀があらわれます。それにさえ気がつけば、わざわざ外から銀を買い求める必要がないことがわかるのです。

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