お金と瞑想

Sep 04, 2025

お金は、仏教でいう「空」を学ぶのにとてもわかりやすい題材です。紙幣はただの紙、口座の数字はただの記号。それ自体には何の重さもありません。けれども私たちはそこに安心や不安、成功や失敗といった意味を注ぎ込み、お金そのものを「特別なもの」として扱ってしまいます。

このことを、チョギャム・トゥルンパは『Work, Sex, Money』の中で次のように表現しています。

“Money is basically a very simple thing. But our attitude toward it is overloaded, full of preconceived ideas that stem from the development of a self-aggrandizing ego and its manipulative processes.”
(お金とは本来、とてもシンプルなものです。しかし私たちの態度は、それを必要以上に重くし、自己拡大するエゴの操作によって作られた先入観で満ちています。)
― Work, Sex, Money: Real Life on the Path of Mindfulness

お金は、ただのお金です。仕事も、ただの仕事です。にもかかわらず、私たちがそこに意味を付け加えることで、余計な重みを背負わせてしまうのです。

 

空の器に意味を注ぐ

この感覚を理解するために、「空のコップ」「空っぽの器」という比喩が役立ちます。物理的なコップが空であれば、何でも注ぐことができます。しかし、すでに満ちていれば新しいものは入りません。

心も同じです。本来、お金や仕事はただの対象にすぎませんが、私たちはそこに「安心」「不安」「比較」「恐れ」といった中身を次々と注ぎ込んでしまいます。その結果、器はすぐにいっぱいになり、本来のシンプルさから離れてしまいます。

つまり問題は、お金や仕事そのものではなく、その空の器に私たちがどんな意味を注いでいるかにあるのです。

 

呼吸で空に戻す

では、どうすれば余計な意味を手放せるのでしょうか。ここで役に立つのが「吐く息で手放す」という実践です。心が考えごとや感情でいっぱいになっても、吐くときに一度すべてを下ろして呼吸に戻す。その繰り返しによって、器にたまった思いや感情を溶かし、必要な余白を取り戻すことができます。

お金や仕事の悩みに心が満ちてしまうときも同じです。気づいたら器がいっぱいになっている──そのときに呼吸に戻り「空に戻す」。この小さな繰り返しが、日常そのものを瞑想の実践に変えていきます。

 

瞑想の二つの力で支える

呼吸とともに「空に戻す」練習を支えてくれるのが、瞑想の基本である シャマタ(落ち着き) と ヴィパシャナ(気づき) です。

シャマタは、心をひとつの対象に落ち着ける訓練です。呼吸に戻り続ける習慣を重ねることで、心が「不安」「評価」「恐れ」に巻き込まれても、それに飲み込まれずに戻る力が育ちます。これは、お金や仕事で器がいっぱいになったとき、いったん空に戻す実践そのものです。

一方、ヴィパシャナは、物事をありのままに見る訓練です。お金も仕事も、それ自体はただの現象にすぎない。そこに安心や不安を付け加えているのは自分の心だと見抜くことができれば、「お金=安心」「仕事=自分の価値」といった固定した観念が少しずつ緩み、自由な関わり方が生まれます。

 

お金を訓練の場にする

この視点を踏まえて、トゥルンパ・リンポチェはさらにこう語ります。

“When we relate to money properly, it is no longer a mere token of exchange or of our abstract energy; it is also a discipline.”
(お金に正しく関わるとき、それは単なる交換の印でも抽象的なエネルギーの象徴でもなく、ひとつの訓練となるのです。)
― Work, Sex, Money: Real Life on the Path of Mindfulness

お金も仕事も、ただのお金、ただの仕事です。そこに何を注ぎ、どう関わるかを観察すること自体が、シャマタとヴィパシャナを通じた実践となります。お金を避けたり神聖視するのではなく、そのありのままを見抜き、扱い直すとき、日常そのものが瞑想の場に変わります。

 

日常こそが心を見る場所

空の器の比喩が伝えているのは、お金や仕事に余計な意味を注ぐ習慣こそが心を重くしているということです。吐く息で空に戻す小さな実践と、シャマタ・ヴィパシャナの訓練によって、その習慣を少しずつ緩めることができます。

お金も仕事も、敵ではなく心を学ぶための最良の教材です。器を空に戻すたびに、そこには新しい余白と自由が広がっています。

みなさんは、お金や仕事という器にどんな意味を注ぎ込んでいるでしょうか?
少し探ってみてください。

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