海外瞑想レポート(3)教室の2分間、兵士の12分間

マインドフルネス メディテーション 海外瞑想レポート 瞑想 Nov 07, 2026

マンハッタンのマウントサイナイ病院(Mount Sinai Health System)では、職員が内線42256にかけると、2分間のガイド瞑想が流れます。同院の公式ページには、何度かけてもかまいません、と書かれています。夜勤の合間、ナースステーションの受話器。そこでは瞑想は、クラスではなく、内線番号なのです。

今回は、学校、軍、病院、刑務所、プロスポーツといった社会の仕組みの中で、瞑想がどう使われているかを、公式情報と報道をもとに見ていきます。結論を先に言えば、アメリカでは瞑想が「自分で探して通うもの」から「制度が時間を用意するもの」へ動いています。しかし、そこには異論もついてきています。

教室の2分間

2023年6月27日、学年度の最後の日に、ニューヨーク市のエリック・アダムズ市長(Eric Adams)は、市内のすべての公立学校で毎日2〜5分の「マインドフル・ブリージング」を行うと発表しました。市の教育局は1,800校以上、110万人の児童・生徒を抱える、全米で最大の学区です。市長は会見で、呼吸は神経系を落ち着かせる、2〜5分で身体は変わる、と述べ、「弾丸の代わりに、呼吸を」と言いました。教育局には「ヨガとマインドフルネスの教員養成プログラム」があり、教員組合によれば、発表の時点で約2,500人の教員が研修を終えていました。

しかし、この義務化には疑問の声があります。マインドフル誌(Mindful)は2025年12月、「ウェルネス・ウォッシング」という言葉でこの政策を論じました。研修も支援も検証も無いまま義務だけが残れば、それは子どもの心の健康ではなく、発表した側の評判のための箱になる、という指摘です。記事の中でマンハッタンのスクールカウンセラーは、訓練された教員が体系的に教える方が「はるかに効果がある」と述べています。

兵士の12分間

もう一つの大きな制度は、軍です。米国心理学会の機関誌「モニター・オン・サイコロジー」は2025年11・12月号で、国防総省が基礎訓練から配備後まで、各段階にマインドフルネスのプログラムを置いていると報じました。中心にあるのは、マイアミ大学の神経科学者アミシ・ジャー(Amishi Jha)が開発した「MBAT(マインドフルネスに基づく注意のトレーニング)」です。4週間で8時間、1回12〜15分の練習を週に3〜4日。ジャーは「注意は、脳のボスです」と言います。

2025年5月には、ウォルター・リード陸軍研究所(WRAIR)が、ジャーの作った「プッシュアップス・フォー・ザ・マインド(Pushups for the Mind.mil)」というアプリを公開しました。短い講義と1日12分の練習が、兵士は無料で使えます。元陸軍中将のウォルト・ピアット(Walt Piatt)は、銃の照準を合わせる「ゼロイン」になぞらえて、「心をゼロインする」と表現しています。

研究結果も二つあります。ウェストポイントの陸軍士官学校では、候補生は、上官が支持していると感じたときほど瞑想をしていました。そして2020年のジャーの研究では、軍を知る指導者に教わった兵士の方が、民間のマインドフルネスの専門家に教わった兵士より成績がよかったのです。

病院、刑務所、コート

冒頭の内線は、マウントサイナイの職員向けプログラム「マウントサイナイ・カーム」(Mount Sinai Calm)の一部で、オンラインのクラスや、ソーシャルワーカーとの個別相談も用意されています。ニューヨーク・プレスビテリアン病院(NewYork-Presbyterian)は2024年秋、毎週木曜の午後にオンラインの「マインドフルネスと瞑想の練習会」を開き、多くの保険が適用される、と案内していました。

刑務所にもあります。仏教誌トライシクル(Tricycle)は2017年、ニューヨーク市の拘置所ライカーズ島(Rikers Island)で、刑務官のための瞑想クラスが毎週月曜の午後に開かれていると報じました。チベット仏教の教師でチャプレンのジャスティン・フォン・ブイドス(Justin von Bujdoss)が1年以上続け、常連は30人ほど。体育館で座り、運動場の声や頭上の飛行機の音も、練習の一部にするのです。

プロスポーツでは、2014年にニックスの社長になったフィル・ジャクソン(Phil Jackson)が、シーズン前の選手全員にマインドフルネスの訓練を課しました。「アスリートである私たちとは、まったく逆のこと」と語りながらです。ブルズ時代から彼と組んできた瞑想の教師ジョージ・マンフォード(George Mumford)は、この仕事を「勇者の訓練」(Warrior training)と呼んでいます。

私たちの伝統から見ると

日本では、瞑想はまだ、やりたい人が探して通うものです。学校で毎朝2分、病院の内線で2分、兵士のアプリで12分。仕組みの側が時間と場所を用意する例は、ほとんど無いように思います。アメリカとの違いは、制度が「瞑想の時間」を持っている、ということなのです。

私たちの伝統から見ると、二つのことが言えます。一つは、言葉のことです。チョギャム・トゥルンパ・リンポチェが1970年代に始めたシャンバラ・トレーニングは、宗教の枠を外して、社会で働き、家族を持つ人のために作られた瞑想の道でした。その中心にある言葉が「勇者(Warrior)」です。マンフォードの「勇者の訓練」、ピアットの「心をゼロインする」。響きは近いのです。しかし、トゥルンパ・リンポチェは、この言葉について、こうはっきり断っています。

『ここで言う勇者とは、他者に戦いを仕掛ける人のことではありません。攻撃性は私たちの問題の源であって、解決ではないのです。勇者という言葉は、チベット語のパウォ、「勇気のある人」から取っています。』
― Chögyam Trungpa, Shambhala: The Sacred Path of the Warrior(1984)より(拙訳)

勇気とは、自分の心を見ることを恐れないことです。私たちの伝統では、勇者はまず、自分と友達になる人なのです。

もう一つは、誰が教えるか、です。軍を知る教師に教わった兵士の方が成績がよかったという研究と、研修の無い義務化は箱になるという批判は、実は同じことを言っています。瞑想は手順ではなく、人から人へ渡るものなのです。私たちの伝統でも、瞑想は先生と生徒の関係の中で手渡されます。制度が時間を用意するのは、よいことです。しかし、その2分間を本物にするのは、教える人自身の練習なのだと、私は受けとめています。

内線にかけるように、1日に一度、座ってみてください。仕組みが無ければ、自分の内線を作ればいいのです。そこから、座る時間は自然に伸びていくものです。

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