読むロジョン / スローガン7

トンレン瞑想 ロジョン Apr 12, 2022
読むロジョン / スローガン7

Slogan 7
Sending and taking should be practiced alternately. These two should ride the breath.
送ることと受け取ることを交互に練習する。これらの二つは呼吸に乗せるべき。


 前回のスローガン6までは、自分の中にある優しさや思いやりに触れる為の「絶対的なボーディチッタ」に関するインストラクションが続いていましたが、このスローガンからは、自分の持っている思いやりをまわりの人たち(動物たち)に向ける相対的なボーディチッタを鍛えるインストラクションが続きます。(ボーディチッタについてはBlog 「2つの思いやり」をご参照ください。)

 『送ることと受け取ること』は、相対的なボーディッタとても重要なプラクティスで、チベット語ではトンレン(tongleng)と言います。トン/tong は”送り出す” または ”手放す” を意味し、レン/lenは “受け取る” または “受け入れる” という意味です。英語で書くと”Sending-Taking” と書きます。今回のスローガンは、『この送ること受け取ること(Sending-Takin)』を、吸う・吐くの2つの呼吸に乗せて行いなさいというインストラクションです。何を送って、受け取るのか?というと、周りの人、周りの生き物たち全ての苦しみを受け取って、自分の持っている良いものであればなんであれ送り出します。「この送って受け取る」練習の最も基本的な練習は、メディテーション(瞑想)で行っていきます。これがトンレン・メディテーション(瞑想)です。

 トンレン・メディテーションは、友人や家族や、職場の仲間の誰かが何かしらの困難を抱え、苦痛を感じているなら、その人の苦痛を吸う息で受け取っていきます。そして代わりに自分が感じている良いものを吐く息で届けていきます。これを呼吸に合わせて繰り返していくメディテーションです。

 今回は、トンレン・メディテーションのやり方もご紹介しますが、ここで大切な点をお伝えしておくと、このメディテーションは、マインドフルネス・メディテーションを実践していない方は、このメディテーションは行わないようにしてください。理由は後述しますが、マインドフルネスのセンスがないと、全く意味をなさいメディテーションであり、場合によっては、心を重たくしてしまう危険性もあります。まずマインドフルネスのメディテーションをしっかり練習してから、取り組んでみてください。

 



トンレン・メディテーションのやり方

 トンレンは、下記の進めで行っていきます。
 
①まずしっかりとマインドフルネス・メディテーションする。
  
 マインドフルネス・メディテーションをして、自分の中にある柔らかさ、優しさに触れていきます。(この柔らかさについては、Blog 「やわらかい瞑想」を参照してください。)

 

②呼吸を使って、ウォーミングアップをする。

 マインドフルネスで、自分柔らかさ、暖かさに触れたら、今度は呼吸に意識を向けてウォーミングアップをしていきます。具体的には、吸気で何か重たい空気を吸っているイメージをします、スモッグのような、重たくてネガティブな空気を吸います。そして反対に、呼気では軽やかで明るい空気を吐き出します。温かく、柔らかく、輝くような、スモッグとは反対イメージのポジティブな空気を吐き出します。この呼吸をしばらく続けていきます。この時、目を開けていても、閉じていてもどちらでも構いません。

 

③誰か一人を思い浮かべて、その人に向けてトンレンを行う。

 呼吸のウォーミングアップが終わったら、自分の身の回りの人で、何かしらの苦悩に苛まれている人を思い浮かべます。そして、その人が感じているであろう苦しい気持ちや痛みを、吸気を使って受け取っていきます。呼気では、自分が良いと感じるものをその人に届けていきます。自分のやわらかい気持ちや、優しさや、軽やかさ、または美味しいランチをした時のハッピーだった気持ちでもいいです。その人が少しでも楽に軽やかになってほしいと心から願って、その人の苦痛を取り除いて、いいものを届けます。これを呼吸に合わせて何度も繰り返していきます。

④範囲を広げる

 特的の誰かの苦痛を引き受け、良いものを届けたら、次にそのイメージした人と同じ苦しみを抱えている世界中の人、または動物たちの苦しみも全て吸気に乗せて受け取っていきます。また、息を吐くときには、自分の中にある良いものをそうした対象全てに吐き出していきます。徐々に範囲を広げてもいいので、呼吸に合わせて繰り返していきます。

⑤マインドフルネス・メディテーションに戻る

 これは慣れてきたら必要がなくなりますが、練習を始めたばかりの頃は、必ず最後はマインドフルネス・メディテーションに戻って、全てを手放して「今ここ」で休むようにしていきます。

 以上がトンレンの流れです。


 
 このメディテーションはイメージを使うため、どうしてもイメージ先行型で頭の中でメディテーションを行なってしまいがちなのですが、トンレンで一番重要なのは、『気持ち』です。私の瞑想の先生であるDavidには昔から「トンレンは、頭ではなくハートで行いなさい!」と言います。トンレンは誰かの苦しみを受け取る時、本当にその苦しみを共感していきます。そして息を吐く時には、本当にその人の気分が軽やかになることを願って気持ちを向けていきます。

 このトンレンを実践していたチベットのある僧侶は、庭先で飼っていたいた犬が通行人に石をぶつけられたとき、それを見て自分にもアザができたと言い伝えられています。トンレンは、哲学的に分析するよりも、ただ感じて共感することがポイントなのです。

 

トンレンの注意点

 文中にも書きましたが、このトンレン・メディテーションを始めるには、日頃のマインドフルネス・メディテーションの実践が必要不可欠です。マインドフルネスの感覚を持たずにこのトンレンを行うと、うまくいきません。

 まず、トンレンは、苦しんでいる人をイメージしてその対象者に意識を向けて行います。マインドフルネスのプラクティスを行なっていないと、心が散漫であちらこちらに気が向いてしまうため、トンレン中に対象者に意識を向け続けることができません。それではそもそもトンレンのプラクティスが始まりません。

 また、息を吐く時は、自分の中にある柔らかさや優しさ、暖かさを使うのですが、これもマインドフルネスのプラクティスを続けた人でなければ、その感覚に触れることができません。散漫で、いろいろな思考や感情に囚われて、心が緊張していると、わからない感覚だからです。マインドフルネスの継続的な実践で培ったこの優しさがなければ、トンレンをしても届けるものがありません。常に思いやりという商品が在庫切れの状態に陥ってしまいメディテーションが成立しません。

 さらに、ネガティブなイメージを吸い込むとき、マインドフルネスの力が欠如していると、イメージや感情が重たくのしかかって、気分が悪くなってしまいます。思考や感情に実体がないことをしっかり感覚として捉えていないと、思考の重さに潰されてしまう可能性があります。トンレンの実践に入る前に、マインドフルネスのプラクティスを通して思考や感情の扱いに慣れている必要があります。
 

瞑想から日常に

 トンレンは、まずメディテーションとして座って行いますが、最終的に日常の中でこの「交換」を行えるようにしていきます。毎日の出来事の中で、悲しいや苦しいものに出会えば、すぐ吸い込み、吐く息で優しさや柔らかさを届けるようにします。徐々に呼吸だけでなく、日常のさまざまな行為全てに、ネガティブなものを引き受けて、自分が持っている良いものを差し出すようにしていきます。

 メディテーションにおいても日常においてもトンレンが難しいのは、私たちが日頃使っている心のパターンとは真逆だからです。私たちは通常、良いものは自分のためにとっておいて、そうでないもの、場合によっては悪いものを自分以外に押し付けることをしています。仕事でも家庭でも、人生において、私たちは基本に『自分ファースト』なのです。自分を守ろうとする私たちのエゴ(自我)の視点からみれば、これは至極真っ当な行動パターンではあるのですが、ロジョンは、この自分ファーストをやめて、自分以外の周りの人を優先する『他者ファースト』を鍛える練習なのです。

 トンレンはそうした自・他の優先度を反対にしてしまうとてもパワフルなメディテーションです。今までの心の動きとは真逆の練習ですので、当然時間もかかりますし、心的な抵抗も少なくありません。しかし、トンレンは、愚直に毎日少しずつ行うことで、ゆっくりですが着実に物事への心の反応が変わっていきます。自分中心の心の癖を逆に回して行くと、不思議なことにそこには優しさや柔らかだけが残って行くのです。