ニューヨークの瞑想トレンド 2026|海外瞑想レポート(1) アリーナの静寂から、100人のサウナへ
Oct 24, 2026
平日の夜、マンハッタンのフラットアイアン地区。西20丁目のビルに、仕事帰りの人たちが吸い込まれていきます。中に入ると、琥珀色の照明のティールームに60人ほどが集まり、やがて全員で100人入りのサウナへ移ります。ガイドの合図で呼吸を整え、音楽が流れ、熱い空気が扇がれ、最後は氷水の浴槽に2分間つかる。これが、いまニューヨークの報道で繰り返し取り上げられている「瞑想」のクラスの一つです。
私は主にアメリカやカナダで瞑想を学んでいますが、このblogでも、ニューヨークをはじめ欧米で、瞑想がどんな姿で広がっているかを、現地の報道や団体の公式情報をもとにご紹介していこうと思います。1回目は、いちばん目に見えやすいところ、つまり「流行のスタイル」から始めます。結論を先に言えば、この10年で主役が入れ替わりました。アリーナを埋める静けさから、身体を使う小さな部屋へ、です。
「大きな静けさ」の終わり
2010年代のニューヨークを象徴していたのは、ザ・ビッグ・クワイエット(The Big Quiet)でした。創設者のジェシー・イズラエル(Jesse Israel)が率いた大人数の瞑想イベントで、タイムアウト・ニューヨークは2016年、マディソン・スクエア・ガーデンのアリーナで行われた回を「史上最大の集団瞑想」として紹介しています。チケットは30ドルで、スポーツウェアのブランドがウォームアップを担当する、いかにもニューヨークらしい催しでした。
その公式サイトには現在、こう書かれています。「9年間、何百万もの人に静けさを届けて、ザ・ビッグ・クワイエットの旅は完了しました」。イズラエル自身も2026年3月のポッドキャストで、9年で一つのサイクルが終わったと語っています。失敗ではなく、役目を終えての幕引きなのです。
身体から入る
では、何が代わりに広がったのか。ブルームバーグは2025年11月、「なぜウェルネスの世界は瞑想からブレスワークへ移ったのか」と題した記事を載せました。呼吸法、サウンドバス、冷水浴。いずれも、目を閉じて静かに座るのではなく、身体に何かが起きることから入る形です。
サウンドバスについては、ニューヨーク・タイムズが2024年4月に、南カリフォルニアの一部で行われていたものがヨガスタジオや企業のイベントにまで広がったと報じました。2026年3月には、アトランタの新聞がサウンドバスを「2026年最大級のウェルネスのトレンドの一つ」と呼び、企業の会議室、教会、劇場にまで入り込んでいると伝えています。記事の中で指導者の一人は、サウンドバスを「怠け者の瞑想」と呼んでいました。横になって音を浴びるだけでいい。この敷居の低さが、人を集めているのです。
ヴィパッシャナの伝統を守ってきた団体も、この流れと無縁ではありません。マンハッタン29丁目のニューヨーク・インサイト・メディテーション・センター(New York Insight Meditation Center)は、2026年7月にクリスタルボウルを使ったサウンドバス瞑想の会を開いています。呼吸への気づき、ボディスキャン、短いガイド瞑想から始めて、そのあと長い時間を音にあてる構成です。
サウナと氷の「ソーシャル」
冒頭の場面に戻ります。あのクラスを運営しているのは、アザーシップ(Othership)という会社です。2022年にトロントで生まれ、2024年の夏にフラットアイアンへ進出しました。タイムアウト・ニューヨークによれば、広さは約650平方メートル、サウナは最大100人収容で、当時「市内最大」と報じられました。2025年9月にはブルックリンのウィリアムズバーグに2店目を開き、2027年にはアッパー・イースト・サイドに3店目を計画しています。
クラスは75分です。業界メディアのアスレテック・ニュースによれば、テーマごとにガイドが導入を話し、サウナの中で呼吸法と視覚化が行われ、精油を含んだ蒸気をタオルで扇ぎ、音楽が流れ、そのあと全員で氷水に2分間入ります。料金は1回64ドルから。同社は自らを、神経系を整えるための現代の浴場と位置づけ、アルコールは出しません。2時間の「イブニング・ソーシャル」は、報道で「ソーバー・キュリアス(お酒に頼らない)な集まり」と説明されています。共同創業者のアマンダ・レインは、アッパー・イースト・サイドの新店について、人々がまるで一つの瞑想を分かち合うように空間を移動してほしい、と語っています。
背景には、飲酒そのものの変化があります。ギャラップ社が2025年8月に発表した調査では、お酒を飲むと答えたアメリカの成人は54パーセントで、過去30年で最も低い数字でした。バーの代わりに汗をかく場所へ行く。アザーシップだけではなく、同じニューヨークの「バスハウス(Bathhouse)」も2026年5月に3,500万ドルの資金調達を発表し、全米10か所への展開を掲げています。瞑想は、こうしたソーシャルな夜の中に、呼吸法として、沈黙の2分間として、組み込まれているのです。
私たちの伝統から見ると
日本でもサウナは人気ですが、そこに呼吸法とガイドの言葉が入り、「瞑想のクラス」として売られている例は、私の知るかぎりまだ多くありません。ニューヨークでは、瞑想が「静かに座ること」から離れて、身体の強い体験と結びつき、さらに人と会う場所になっています。
私たちの伝統、つまりチョギャム・トゥルンパ・リンポチェが欧米に伝えたシャマタ・ヴィパッシャナの練習から見ると、ここには二つのことが言えます。一つは、身体から入るのは正しい、ということです。トゥルンパ・リンポチェの瞑想指導も、姿勢と呼吸という身体の規律から始まります。サウナの熱や氷の冷たさが人を「今」に引き戻すのと、構造は同じです。
もう一つは、その先です。熱と冷たさは、強い状態を作り出します。しかし、作り出した状態は、部屋を出れば消えます。私たちの練習が目指しているのは、何かを作り出すことではなく、すでにそこにあるものに気づくことです。マインドフルネスで吐く息に戻り、アウェアネスで部屋全体に開く。氷水の2分間に集中できるなら、ぬるい日常の2分間にも、同じ心は使えるはずなのです。流行の入口は歓迎しつつ、その先に何があるかは知っておいてください。